先日に当院にこんなお電話をいただきました。「いままで地元でかかっていた歯医者さんでは黙っていても白い歯で治療してくれたのですが、先日、東京の学校の近くの歯医者さんに見てもらったところ、むし歯が発見されました。その歯医者さんでは処置すると銀歯になるっていわれたんですけど私の気持ちとして銀歯の治療は避けたいのですがどうしたらいいですか?」という内容です。

 その方が来院される当日の朝、私はミーティングでスタッフに話をしました。「おそらく、銀歯を提案した先生はきっと良心的な歯科医だよ」と、後で判明したのですが実際その読みは的中しました。

 こう書いたら、きっと皆さんは「なぜ」とおもうかもしれません。今回はその背景を解説したいと思います。

ここで説明する銀歯とは健康保険で使用できる「12%金銀パラジウム合金」という素材です。また白い歯とは「コンポジットレジン充填」のことを指します。つまり歯全体を覆う被せ物の話では無く、歯の一部がむし歯でその部分を補う「詰め物」に関しての話になります。また金属アレルギーに関しての判断は今回は除外します。

 元に戻ります。最近は歯の色に近い素材で処置した歯が判らないように自然な感じで治療したいと皆さんが思われていると思います。当院でも腐食しやすい銀歯の処置は行っていませんにもかかわらず、自費のセラミックの詰め物やその場で行う白い樹脂(コンポジットレジン充填)でもなくわざわざ「銀歯」を提案した歯科医は嫌われる覚悟で提案したと思うのです。その心の内を考えてみます(おそらく、歯科医の心の内をあからさまに表現する試みは今までないと思いますし、歯科医の考え方は本当にバラエティに富んでいますので私の考えのバイアスがかかっていると思ってくださって結構です。)


 歯科医Aの心の声:「女性だし白い歯じゃないとウケが悪いかなー、でもセラミックの詰め物だと保険適用外だから、学生さんには金銭的負担が増えるからおすすめできないなー
そうしたらコンポジットレジン充填か?どれどれ他の奥歯はみんなそのレジン充填してあるな〜患者さんに嫌われたくないから同じようにするかな?イヤ待てよ、今回の治療予定の歯はよく見ると、歯にヒビまではいているよ、噛む力が強そうだな、これではレジン(樹脂)だと処置したとしてもまた欠ける可能性が高いな〜・・・・・・
うーん、むし歯はかみ合わせの部分だけで無く、隣の歯との間までも広がっているな、そうなるとレジンで丸みをつけて形を回復しないといけないな〜

歯のカーブの丸みや隣の歯との隙間の調整は白いレジンだと難しいんだよね、そうなると本当は銀歯は金属代を考えると経営としては赤字なんだけど見栄えより長期的に歯を守るには今回は銀歯が一番だよね、うんそう提案しよう!」

 妄想ですがおそらくこのように頭の中で考えての提案だと思います。唯一、落ち度があるとしたら、その思考の過程を上手に伝えきれなかったと言うことと、親に歯列矯正をしてもらっているので綺麗な状態で歯を保ちたいという強い患者さんの思いを聞けてなかったということだと思います。これを図で表現します。

二つの歯が並んで生えている絵です
むし歯が歯の中で進行している状態です
コンポジットレジン充填を上手にできればむし歯を取り除いた
空間に樹脂をその場で詰めていきます・・がこれがとても難しい
銀歯だといったん歯形をとり、それを技工士さんにお渡しして
詰め物を加工してもらいます。後日できあがったら微調整して
歯に接着します。
実際は狭くて暗いお口の中で詰め物をするのは
正直、至難の業。当院では1時間はかかりますし
相当な修行が必要な技術です。もちろん手を抜けばきりがありません
技工士さんが精魂つめて作っていただいた銀歯です。
歯科医師が付け焼き刃で処置するより遙かに上手な
仕上がりです。

ネット情報では銀歯は悪という声をちらほら目にします。決して銀歯が悪いのでは無く、時と場合によるのです。もちろん接着剤をきちんと使うということが前提になります。


銀歯:歯形をとって、実際に歯を作るのは作業しやすい模型上で手慣れた歯科技工士さんが作成し、歯科医は微調整をして接着するだけなので実際は技工士さんの腕に大きく左右される

コンポジットレジン充填:唾液があったり暗いお口の中で直接歯科医が完成まで仕上げるため手間や時間が本来かかる、歯科医師の熟練度とやる気に大きく左右される。


このようにむし歯の進行状況、噛む力のかかり具合、歯科医師の熟練度合い、歯科医院の予約に十分時間が取れるシステムであるか等の環境によって「白い歯」がベストとは言い切れないので十分相談した方が良いかと思われます。

えっ わたし、金属の治療もコンポジットレジン充填も30年以上行っていますが未だに修行中ですし、毎回どういう素材でどのような処置が望ましいか毎回悩んでいます。

 今回実は中にむし歯がごっそり残っていました、その闇についてはまた、で結局どうしたかについてもまた解説できたらと考えています。