金の斧と銀の斧

歯科治療の「素材」の違いと考え方


 従来、歯科治療ではこの「素材」は保険では使えないとか使えるとか、こちらの「素材」の方がもちが良いなどのという苦し紛れの説明をして、自費診療へと誘導するのが歯科医の常套手段でした。

 しかしよく考えてみると、一連の歯科治療において、『素材』だけを変更しただけではその効果は限定的なことは想像できると思います。

 建築で例えると基礎工事がしっかりしていなかったり、地盤がゆるい土地に上屋の木材だけ高級なのを用いても立て付けが悪かったり、設計がわるかったら、期待した住空間が得られるはずもありません。

これは、歯科医療で言うと、
 事前の歯周治療、
 噛み合わせの見立て、
 むし歯の部分をきっちりと取ってあるか、
 根の消毒、
 土台の処置、
 かぶせものができあがってからの接着の仕方、
 治療後の定期的なメンテナンスなどのフォロー
の方が今後の歯の運命を左右しているともいえます。

 そこで「かぶせもの」にどのような「素材」を使うかの影響は歯の治療の結果のごく一部にしか与えません。
 ここで再び建築にたとえを戻します。
そもそも、その土地へ長く住めそうなのか、平屋を建てたいのか、ビルを建てたいのか、それとも仮設住宅なのかで事前の段取りは違うはずです。
 さらには、どのようなライフスタイルを望んでいるか、今後家族数の減少も想定しているか、何年住み続けるか、などでも家の建て方が全く異なります。
となると、お医者さんがお薬を処方するように、または料理人が素材を選んでその素材の持ち味を引き出すような調理方法を選ぶように、皆様のお口の環境や価値観を鑑みて歯科医が「素材」と「調理法」を選ぶのがベストです。

 ここではその選んだ背景を少しお話しできればと考えています。
ではわかりやすいように大きく分けて「金属」と「セラミック」に分けてその特性を考えます。

  • 見栄えの観点から

    【金属】:金属は一般的にキラキラ光ると思われやすいですがお口の中は光が差し込まないのでかえって歯が無いように見える場合もあります

    【セラミックス】:白くて自然感が高いですが、よりそれぞれの個性に合わせるとなると表面にセラミックスを追加加工が必要になります。厳密に周りの歯と色調を合わせるとなると難易度がぐっと上がります。
  • 強度の観点から

    【金属】:割れることも無い上に、天然の歯のように適度にすり減るので咬み合う反対側の歯にも負担を変えません。そのためトラブルは少ないです。特に歯並びで言うと一番力のかかる奥の歯には最適です。

    【セラミックス】:非常に硬い素材ですが、一定以上の強度の力が加わると割れる可能性があります。歯ぎしりが強い方など噛む力が強い方はリスクがあります。また一番奥の歯に使用するのは避けた方が望ましいです
  • 精度の観点から

    【金属】:非常に精度が高く、調整もしやすいです。フィットが望まれる場合は最適です。

    【セラミックス】:現在、通常の治療には問題無い程度の精度があります。(と言うことは、厳密に言えば金属より劣るということです)
  • 厚みの観点から

    【金属】:非常に薄く加工できるので反対側の歯との隙間が不足している場合は一択です。また薄くできると言うことは、自分の歯を削る量を少なくできます。(特に神経が温存されている歯にとっては重要です)

    【セラミックス】:ある程度の厚みをもうけないと強度不足で割れる可能性がありますので、その分ご自身の歯を小さく削る必要性があります。

そうなると
見える位置に生えている歯は白いセラミックがより適しているし
奥歯で耐久性が求められるのは金属が有利です。
なるべく自分の歯を削りたくない方は金属が望ましいですし
歯周病がある方、深くまで歯を失っている方はセラミックの方が
歯肉に優しいです。
もっというと、今後入れ歯のバネがかかりそうなのか、つながっている歯を切断して利用する可能性があるのか、治療対象の歯だけで無く
その歯と噛み合う反対側の歯へのダメージはどうなのかなどと先を見据えて選択する必要性もあります。
このように皆様のそれぞれの価値観の優先順位や今回処置が必要な歯の置かれている環境によって、歯の治療法を選ぶのが歯科医の役割となります
今後、自分の体の一部と末永く付き合う予定ですので。皆様の治療に期待すること、価値観、逆に、して欲しくないことなどお教えいただければそれに応えるように提案しますのでよろしくお願いいたします。