
はじめに、知っていただきたいこと
私、菊地誠は、靴屋を営む家の長男として生まれました。親族に医療関係者はおらず、歯科医療とはまったく縁のない環境で育ちました。
高校3年生のとき、父から医師になることを勧められました。しかし私は、いわゆる「お医者さん」というより、手を動かしてものをつくる「技術者」のほうが自分には向いているのではないかと感じていました。
そこで父から「それなら歯科医師はどうか」と勧められ、医師よりは自分に合っているかもしれないという、当時はまだ漠然とした思いで北海道大学歯学部に進学しました。
大学では、勉強以上にボート部で船を漕ぐことに熱中していた時期もあり、歯科医師になるという実感を十分に持てないまま、平成2年に卒業しました。
ただ、卒業を前にして、歯の根の治療を教わった恩師から言われた言葉が、強く心に残りました。
「これからも、学生実習で学んだ基本を大切にして診療してください」
なぜ先生があえてそのようなことを言われたのか。その意味は、歯科医師として働き始めてから少しずつ分かってきました。
理想と現実の間で
勤務医として臨床の現場に立つと、大学で学んだ基本を丁寧に実践することと、限られた時間や費用の中で診療を成り立たせることの間に、大きな隔たりがあると感じるようになりました。
十分な診査や説明に時間をかけることが難しく、診療の効率が優先される場面もありました。衛生管理や処置の進め方についても、自分が受けたいと思える医療との違いに悩みました。
私はその疑問を率直に伝えましたが、考え方の違いは埋まらず、最初の勤務先を離れることになりました。
一度は歯科医師という仕事そのものから離れ、家業の靴屋を手伝いました。しかし半年ほど経ったころ、知人の先生から声をかけていただき、再び歯科医院で働くことになりました。
今度こそ、自分の考える診療ができるのではないかと思いました。しかし、そこでも限られた制度や経営上の制約の中で、患者さん一人ひとりに十分な時間をかけることの難しさを感じました。
当時の私は、父に「歯科医師を辞めて、別の仕事をしたい」と相談しました。
すると父から、こう言われました。
「それなら、自分で独立して、歯科医療として正しいと思うことと、医院経営を両立させてみたらどうだ」
この言葉に背中を押され、27歳で開業したのが菊地歯科の始まりです。
丁寧に診療するほど生まれた葛藤
開業後は、できる限り丁寧に診査し、十分に説明し、一つひとつの処置に手間を惜しまないことを心がけてきました。
日本の健康保険制度には、誰もが一定の医療を受けやすいという大きな役割があります。その恩恵は、決して小さなものではありません。
一方、歯科治療では、同じ病名であっても、歯の状態、生活背景、将来の希望によって、必要な時間や治療方法が大きく異なります。しかし保険診療では、使用できる方法や材料、治療の手順、評価される費用などに一定の枠組みがあります。
丁寧に時間をかけても、その時間や難易度が十分には反映されない処置もあります。安全性や精度を高めようとすれば、設備、器材、衛生管理、技術研修などにも相応の費用が必要です。
これは、保険診療に携わる歯科医師の努力が足りないということではありません。多くの先生方が、制度上の制約の中で工夫を重ね、懸命に診療されています。
私自身も長い間、その枠組みの中で、どこまで自分の理想とする医療を実現できるか試行錯誤してきました。
予防歯科との出会い
開業して数年後、北欧の予防歯科の考え方に出会いました。
悪くなったところを削り、詰め、抜くことだけが歯科医療ではない。病気になった原因を調べ、再発を防ぎ、自分の歯をできるだけ長く守ることこそ、本来の歯科医療ではないか。
この考え方に触れ、歯科医師として進むべき方向が見えたように感じました。
その後、診断力と治療技術を高めるために研鑽を続け、設備を整え、より精密で効率のよい処置を目指してきました。それでも、保険診療の枠組みの中で、予防、精密な診査、十分な説明、長期的な健康管理を一貫して行うことには難しさが残りました。
制度は必要に応じて改定されます。その一方で、診療の方法や適用条件が変わることで、患者さんにとっても、医療者にとっても、分かりにくさが生じることがあります。
制度に診療方針を合わせるのではなく、まず患者さんのお口の状態と希望を確認し、その方に必要なことを基準に診療を組み立てたい。
その思いが、次第に強くなっていきました。
自由診療に一本化した理由
保険診療と自由診療を同じ医院で行う場合、それぞれの制度上の取り扱いや、両者を併用する際のルールを考慮する必要があります。
また、安全性や精度を高め、十分な診療時間を確保し、スタッフが無理なく質の高い仕事を続けられる環境を整えるためには、現実的な費用も必要です。
私たちはこれまで、さまざまな工夫によって、その差を埋めようとしてきました。しかし、制度上の制約と、私たちが責任を持って提供したい医療との両立には、次第に限界を感じるようになりました。
そこで菊地歯科は、自由診療に一本化するという決断をしました。
これは、高価な治療を勧めるための選択ではありません。
必要のない治療は行わないこと。
いきなり削らないこと。
安易に抜歯やインプラントを勧めないこと。
まず原因を調べ、今すべきことと、今はしなくてもよいことを整理すること。
そして、患者さんが内容を理解し、納得したうえで治療を選べるようにすること。
こうした診療を一貫して行うための選択です。
自由診療は、すべての方に適した仕組みではないかもしれません。また、保険診療と自由診療のどちらが一律に優れているということでもありません。
大切なのは、それぞれの特徴と制約を知ったうえで、ご自身の希望に合った医療を選べることだと考えています。
私たちはこれからも、自分たちが受けたいと思える医療を、患者さんにも提供することを目指します。
この考え方に共感し、菊地歯科を選んでくださる方に対して、誠実に責任を果たしてまいります。
治療を繰り返さないために
歯科医院は、悪くなったところを削ったり、抜いたりするためだけの場所ではありません。
一度削った歯が、完全に元の状態へ戻ることはありません。治療を繰り返すたびに歯は少しずつ失われ、やがて抜歯に至ることがあります。
だからこそ、治療そのものと同じくらい、
- なぜ悪くなったのか
- どうすれば再発を防げるのか
- 今ある歯をどう守っていくのか
- どのような間隔で確認すべきか
を考えることが重要です。
定期的なメンテナンスは、単に歯をきれいにするためのものではありません。お口の変化を早く見つけ、必要のない治療を減らし、自分の歯で食べ続けるための健康管理です。
菊地歯科では、歯科医師が治療を一方的に決めるのではなく、患者さんと一緒に考えることを大切にしています。
「何をするべきか」だけでなく、
「今は何をしなくてもよいのか」もお伝えします。
治療を急がせたり、高額な治療を押しつけたりするための自由診療ではありません。
患者さんがご自身の状態を理解し、納得して選択できること。そして、必要な医療を必要なだけ、責任を持って提供すること。
それが、菊地歯科が自由診療を選んだ理由です。
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