親知らずとは

歯医者さんからの「親知らずを抜きましょうか?」という何気ない一言、これほど皆さんの心を不安にさせる言葉は無いと思います。それは『親知らずの抜歯』=『寝込むほどの痛みや腫れ』という話をよく耳にするからです。  今回はその『親知らずの抜歯』についてです。そもそも『親知らず』とは特別な歯ではありません。ただ歯が生えてくるタイミングが、一番最後で親が気付かない時期に生えてくるからそう呼ばれているだけなのです。「問題を引き起こすだけの余計な歯」と思っている方もいらっしゃると思いますが、そうではありません。

親知らずの特徴

元から「親知らず」の種を持っている方と無い方がいます。そのため、一本も生えない方から上下左右と4本生える方まで様々です。また、顎が比較的小さい日本人にとって生えてくる場所が足りずに、つかえて完全に生えきらない場合もあります。素直にまっすぐ生えてくれれば問題無い事が殆どですが、そうでない場合は、後ほど説明するような問題が出てきます。

こんな時は要注意

1.親知らずや隣の歯がむし歯になっている。

治療の機材が届かないため処置ができない事があります。特にお口の小さい方は、なおさら困難になります。 

2.歯周病を悪化させている

生え方によっては、お手入れの道具が届かないため、丁度良い細菌の住処になります。その結果大きく骨がとけたり、細菌がさらに顎の中深く、場合によっては喉の方まで感染が広がり唾を飲み込むだけで痛いと訴える方もいらっしゃいます。

3.親知らずが歯並びや噛み合わせを悪化させる

 親知らずが生えてくる力で手前の歯を押し出す事があります。玉突き事故のように前歯まで影響する場合もあります。

抜くのが大変な理由

1.根の形が変わっていることが多い

根の先が曲がっていたり、太っていたりすると、骨に引っ掛かり抜歯時にトラブルを起こしやすいです。 

2.神経に近い

下顎の「親知らず」の下には太い神経が通っていて、時には親知らずの根と接している場合があります。そのため抜歯時に神経を傷つけると「麻痺」が残る恐れもあるのです。CTで事前に神経と根の関係の確認が必要です。 

3.歯を抜いた後の穴と副鼻腔(鼻)がつながる

上顎の「親知らず」の上には上顎洞という副鼻腔があり根の先が入り込んでいる場合があります。歯を抜くと抜いた穴が上顎洞とつながり、時には口から飲んだ水が鼻から出てくる事もあります。

4.麻酔が効きにくい

 下の顎は骨が緻密で厚く麻酔液が浸みていきにくいため麻酔が効きにくいです。さらに、痛むなど炎症がある場合は特に麻酔の効果が現れにくいです。

抜歯中のトラブル

1.根が途中で折れる

 根の先が曲がっていたり、細いと途中で「ポキッ」と折れる可能性があります。折れた先を顕微鏡で探して取り除くなど余計に時間がかかります。

2.顎の骨が割れる

 歯を抜こうと力まかせに行うと、顎の骨の弱い部分が折れたという話を聞く事もあります。

3.麻痺が残る

 前述のように、根の先が神経に触っている場合は、歯を抜こうと動かすと神経を損傷して、極まれにしびれや麻痺が後遺症として残る事もあります。

有って良かった親知らず

1.ブリッジ

 親知らずがあるからこそ取り外しの入れ歯でなく固定式のブリッジにできる事もあります。お手入れの難しさはある反面、快適さが得られます。

2.入れ歯の支え

 入れ歯は歯茎で噛む力を支えるのですが、奥に親知らずがあると無いとでは安定度が異なります。食べられる物のレパートリーが増えます。

3.移植

諸条件が揃えばの話ですが「自家歯牙移植」と言い、親知らずを歯の無い場所に移植できるケースもあります。

 結局抜いた方が良いの?

親知らずだから問題が起きる前に抜くのでは無く、基本は「抜かない」が原則です。なぜなら歯を抜くのは、先に述べたように危険を伴うからです。ただし、抜かずに放置する問題と、歯を抜いて解決する問題を天秤にかけ、抜くメリットがデメリットを大きく上回る時に抜く事を考えた方が良いと思います。これには事前のリサーチと個別の診断、相談が大事になります。 次回は、抜歯する前と後の心がけや注意する点についてご紹介いたします。